パニック障害の5つの精神療法とそのくわしい内容について
パニック障害の治療では、飲み薬を使った「薬物治療」 と 「精神療法」 の2つを併用しておこなうのが一般的です。
精神療法とは、薬を使わずに、自分の思っていることを伝えたり医師の話を聞いたりといった「対話」を通して治療すること。そんな精神療法について、いくつか具体的な方法を紹介します。
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【目次】
1.支持的精神療法
精神療法の中でも一般的なものが「支持的精神療法」。患者さんが医師やカウンセラーに対して話をする方法で、次の2つから構成されています。
- 患者さんの心身を、存在から支える方法
- 患者さんの話すことに耳を傾け、対象者と心を通わせ、共に理解を深める方法
(1)患者さんの心身を、存在から支える方法
患者さんは不安や悲観な思いと毎日戦っています。
- わたしの存在意義は何だろう?
- わたしが今までにやってきたことは何だったんだろう?
- わたしの将来はどうなるんだろう?
支持的精神療法は、このような状態から患者を解き放つための治療。否定ではなく、肯定し共感することから始めていきます。
「不安があるんですね」、「今まで頑張ったのはムダだったの?と思うことは私にもありますよ」 など、患者さんの思いをありのままに受け止めます。
そして、患者さんの存在そのものから認めて支えていくのが支持的精神療法です。
(2)患者さんの話すことに耳を傾け、対象者と心を通わせ、共に理解を深める方法
患者さんは、「誰かに話を聞いてもらいたい」という気持ちと、「どうすれば良いのかわからない」という不安とを持ち合わせています。
そこで、患者さんの話すことに耳を傾けて、質問などをしながら患者さんとの相互の理解を深めるのが、支持的精神療法。
人は、話を聞くてもらうだけで心がほっとするもの。医師がただしっかりと話を聞いてくれるだけで、信頼感が増してきます。医師にとっても患者さんのことをよく知ることができるでしょう。
こうして見てみると、支持的精神療法とは、「今から始めますね」という治療ではなく、普段の診察での会話自体が支持的精神療法となっているといえます。
言いかえれば、普段の診察や会話が支持的精神療法となっている医師と一緒に治療に取り組むことが、早期治療にもっとも欠かせない点ではないでしょうか。
その他メリットとデメリットなど、支持的精神療法についてくわしくは >>
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2.精神分析療法
精神分析療法は、治療というよりも患者が精神に障害を負った原因を分析する方法。20世紀を代表する精神科医であるフロイト博士が提唱したもので、患者の“無意識”に着目した治療法となります。
過去にさかのぼって原因をつきとめる
精神分析療法では「自由連想法」という技法が使われます。
医師やカウンセラーと患者とで1対1になります。イスにゆったりと座って、患者は自由に思い浮かんだものを話していきます。
その内容を受けて医師やカウンセラーが質問をして、より深く堀りさげながら患者の過去へさかのぼって、精神に障害を負うことになった原因を突き止めるのが目的となります。
週に1回などの頻度でくりかえしながら、医師がトラウマに気づくこともあれば、患者さん自身が自分で気づくことも。原因であるトラウマが判明すれば、それに合わせた治療をしていきます。
脳は忘れても体は覚えている
パニック障害をはじめとする精神障害は、幼少期に負ったトラウマが原因となっていることも少なくありません。
人間の脳は悪いことは忘れようとするものですが、体の細胞はそのできごとを記憶しています。
つまり、体は覚えているけれども脳は覚えていないので、そのできごとを頭では意識していないし思い出すこともできない。でも実はそのできごとが原因となっている、ということがあるのです。
このようなケースで精神分析療法が効果を発揮します。
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3.森田療法
森田療法は、日本人の森田正馬さんが考案した精神療法。パニック障害だけでなく、高所恐怖症、強迫神経症、対人不安症などにも効果があるとされています。
「あるがままに生きる」
森田療法の基本は「あるがままに生きる」。これは「目的本位に行動をする」ということです。
例えば、夏休みの宿題。
- 「今は遊びたいから遊ぼう!」
- 「後でやればいいや!」
としているうちに夏休みも残り1週間。あわてて宿題に追われた経験、ありませんか?
これは「気分本位」の考え方。宿題をしなければいけないとわかっているけど、遊びたいから遊ぶ。
森田療法は「気分本位」ではなく「目的本位」。「気分ではなく行動する」です。やる気になったら始めよう、ではなく、とにかく始める、です。読書感想文を書くのは気が重いのなら、まずは漢字ドリルでもなんでも始めるのです。
「宿題をやらなければならない」という目的を重視して、その時の気分などは考えずに、「とにかく行動に移す」ことを重要視するのが森田療法の考え方です。
緊張や不安があってもそれでいい
森田療法では、緊張や不安を 「よし」 としています。
おおぜいの前でスピーチをする、大事な商談でプレゼンをする。緊張するのも不安になるのは当たり前です。この時に「なんとか緊張をしずめよう」、「不安な気持ちをなくさなきゃ!」とがんばればがんばるほど、緊張も不安も強くなっていきます。
森田療法では、その緊張や不安があることは自然なことであって、悪いことでもなんでもない、と考えます。そして緊張や不安(=気分)があっても「それでよし」として、スピーチやプレゼンをしっかりやること(=目的)に集中する、というものです。
誰にでもできる森田療法
森田療法のポイントは、「誰にでもできる」ということです。「気持ちを無視して、やらなければならない」というルールに沿って行動することで、建設的な考えができるようになって、パニック障害などの改善にもつながっていきます。
パニック障害ではなくても、緊張したり不安になったり気がかりがあったり、というのは普通のこと。この習慣を身につければ、精神的なストレスも軽くなりますし、いろんなものごとが進んでいくのではないでしょうか。
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4.認知行動療法
認知行動療法は 「認知 (思いこみ、とらえ方、考え、学習)」 の誤りが予期不安や広場恐怖を引き起こすと考えて、その認知を修正していく精神療法です。
電車に乗るのが怖いケースを例にあげて説明します。
例)電車に乗るのがこわいケース
電車に乗っていたら発作が起きた。すると、
「電車に乗ったから発作が起きたんだわ!」
と間違って理解してしまいます。パニック障害は場所や状況との因果関係はないのに、「電車=パニック発作」というように関連づけてしまう(これが認知の誤り)。
こうして「電車に乗って、また発作が起きたらどうしよう……」と「予期不安」がわきあがって、電車に乗ることを避けるという「広場恐怖」が生じていくのです。
この「電車=パニック発作」という間違った理解を修正していくのが、認知行動療法です。
認知行動療法の進め方
認知行動療法の進め方で、広場恐怖の改善に効果的であるということで広く使われているのが「暴露療法」。患者さんが恐れている状況、避けたい場所に少しずつ慣れてもらうことで、不安や恐怖を取り除いていくものです。
具体的な手順はというと……
【1】パニック発作や予期不安や広場恐怖が起こるしくみ、認知行動療法の効果を学ぶ。
【2】毎日の自分の状態を記録する。(いつどんな状況で発作が起きた?その時の症状は?)
【3】呼吸法や自律訓練法といったリラックス法を練習する。
【4】自分の体の感覚を必要以上に悪くとらえていないかを検討する
【5】不安や恐怖を感じる場所に実際に行って、少しずつ慣らす(暴露療法:誤った認知を修正する)
*-*-*-*
【1】から【4】までは特に問題なく進めることでしょう。問題は【5】の「不安や恐怖を感じる場所に実際に行って、少しずつ慣らす(暴露療法と呼ばれています)」。
この「暴露療法」の具体的な進め方を「電車がこわいケース」を例に紹介します。
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暴露療法の進め方(電車が怖いケース)
いきなり電車に20分も30分も乗るわけではありません。少しずつ無理なく進めていきます。たとえば……
- 家族と一緒に駅のホームまで行く(電車は乗らない)
- 家族と一緒に各駅停車に1駅乗る
- 家族と一緒に各駅停車に2駅乗る
- 一人で各駅停車に1駅乗る
- 一人で各駅停車に2駅乗る
- 一人で急行に1駅乗る
- 一人で特急に1駅乗る
- 一人で特急に2駅乗る
あくまでも目安ですが、このように少しずつハードルを上げていきます。
「母と一緒なら各駅停車で3駅でも大丈夫!」、「特急に乗っても1駅なら発作は出なかったわ」 というように、発作が起こらずに大丈夫だったことを都度確認して、次のステップへと進んでいきます。
そして最終的に、「電車に乗っても発作は起きないわ!あの時はたまたまだったのね。」と電車と発作は関係なかったことを理解する(認知の修正)ことで、広場恐怖をクリアしていきます。
※参考サイト:NHK健康チャンネル「心のリラックスでストレス解消 - 認知行動療法で考え方を見直す」、「突然、動悸や息苦しさが発作的に始まるパニック症。自分でできる対処法とは」、厚生労働省 e-ヘルスネット「認知行動療法」
最後に「自律訓練法」についてお伝えします。
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5.自律訓練法
予期不安や広場恐怖などの症状をやわらげる精神療法として、ドイツの医師シュルツ氏が考え出したのが 『自律訓練法』。不安を取り除くリラックス方法です。
短期間で習得しやすい方法でもあり、リラックス効果も高いのがこの自律訓練法。治療の現場だけでなく、スポーツ選手のメンタルトレーニングやビジネスマンのストレスケアなど、幅広く利用されています。
第1公式から第6公式、そして消去動作、全部で7つのステップで構成されています。
自律訓練法のやり方
※このページではやり方の概要をお伝えします。より具体的なやり方はこちらのページにて → 自律訓練法の方法・効果・注意点とは >>
自律訓練法をおこなう場所は、暑くもなく寒くもないところを選びます。なるべく静かな場所で、リラックスできる場所が良いでしょう。服装はゆったりとしたものを選びましょう。
姿勢はあお向けになって寝ている状態が好ましいです。イスに座った姿勢でおこなうこともできますが、あお向けの方が効果的。ふだん枕を使っている人は同じように枕に使いましょう。
両腕と両足を少し開いて体から離します。手の指は力を抜いて曲がっている状態にしましょう。力を抜く時に肩をふっと上下させると緊張状態がほぐれますね。そしてゆったりと軽くやわらかな感じで目をつむります。これで準備は完了です。
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第1公式:手足が重たい
『気持ちがとても落ち着いている』と心の中で自分自身に言い含めます。波の音が聞こえる夕べの海や高原などおだやかな気持ちになれるシーンをイメージ。雑念が出てきそうになったら、『自分は今、気持ちがとても落ち着いている』と何度も心の中でつぶやいてください。
手足の重さを感じる
気持ちがやわらいできたら、手足の重さを感じる作業に入ります。
まず自分の利き腕に意識を集中させて『利き腕が重たい』と心の中でつぶやきます。本当に利き腕が重く感じるまでそれを続けましょう。手足を重たいと感じるには手足の力を最大限に抜くことがポイント。必死に重たくしようとせずに、自然と重たく感じるまで待ちましょう。
利き腕が重たいと感じるようになったら、利き腕とは逆の腕 → 右足 → 左足 という順番で同じように『重たい』と心の中で念じましょう。そして、手足が完全に重たいと感じるようになるまで待ちます。
最初からうまくできないのが普通です
自律訓練法を始めて、すぐにできるわけではありません。1ヶ月たっても手や足の重さを感じることができない人も。自律訓練法の目的はリラックス。必死になったり焦ることなく、安心して続けましょう。
ここまでの動作が完了した状態が、自律訓練法の第1公式『手足が重たい』です。
第2公式:手足が温かい
次に、手足が温かいと感じる作業に入ります。
これも利き腕から始めましょう。『利き腕が温かい』と心の中でつぶやきます。じわじわと温まるようなイメージをしてみましょう。
利き腕に温かさが感じられるようになったら、利き腕とは逆の腕 → 右足 → 左足……という流れで温かさを得ていきます。
締めは必ず消去動作を
第1公式、第2公式の動作によって、心身ともに非常に強いリラックス状態となっています。このままではボーッとしたりスッキリしないことがあるので、必ず消去動作をおこないましょう。
やり方は、両手をグーにしたりパーにしたりを数回くり返し、そのあと“ぐーっ”と大きく伸びをします。そして、最後に深呼吸をおこなって終了です。
消去動作は、自律訓練法を途中で終了する時や途中で寝てしまった時にもおこないます。
*-*-*-*
ここまでで、自分でできる自律訓練法のやり方は終わりです。
この先の第3公式、第4公式、第4公式、第6公式については、医師などの指導のもとでおこないます。ただ、第2公式までしかおこなわないから効果がないということはありません。安心してください。
自律訓練法をおこなうことで、緊張状態から解き放たれてリラックスした状態になることができます。その効果は精神面にも身体面にもあらわれてきます。
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精神面での効果
- 気持ちが穏やかに平安になる
- イライラした気分が消える
- ストレスに強くなる
- 集中力が高まる
- 心にゆとりが生まれて、生活を見直すことができる
身体面での効果
- 体が温まる(体内酵素や新陳代謝が活発に)
- 血行がよくなる
- 血圧が安定する
- 疲労回復が進む
- 副交感神経が活性化して、体の回復が進む
リラックスすることは、実は気分的なものだけでなく、体と心の健康を維持するための基本中の基本。もっとも大切なポイントなのです。
自律訓練法でリラックス状態が作れるようになれば、パニック障害の症状にとどまらず、あらゆる不調の回復に非常に効果的にはたらきます。すべての人にとって有効な方法と言えるでしょう。
※参考サイト:NHK健康チャンネル「自律訓練法のポイント」、厚生労働省 e-ヘルスネット「自律訓練法」
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以上、代表的な5つの精神療法について、概要を紹介しました。
パニック障害は薬の治療と併用して精神療法がおこなわれるのが一般的。医師やカウンセラーを信頼して、精神療法を進めていきましょう。
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